前回の【狩人的小話⑤「襟巻雷鳥」と「鶉」】で述べた通り、鶉と雉は生息範囲が近いので、いずれも里山や畑、河川敷や湖沼湿地帯などで目にすることは多い(多かった)です。また、これまでの文脈同様に狩猟の側面から見ても、いずれの野鳥とも生息地では国内外を問わず人気のゲームバード(狩猟鳥)としての地位を与えられています。まぁそんな地位は鳥にとっては迷惑甚だしいのでしょうが。。
日本の場合、雉は「国鳥」に指定されているほか、桃太郎の昔話でも登場するように単なる野鳥の範疇を超えて愛されてきたキャラクターだといってよいでしょう。それは生息域が人の生活域と重なり、また人目を惹く鮮やかな羽の色合いや立ち姿の凛とした美しさにも起因しているのではないでしょうか。
また国鳥としての地位を与えられながら、一方で狩猟の対象として認められていることは珍しいかもしれないですね。若干割り切れなさが残る気もするけれど、それもやはり人間の生活との近しい場所で共生してきたことの表れに違いないと思います。登山用語でトイレの隠語として「雉撃ち」の言葉が充てられていることからもそのことが伺えますね。
ちなみに上の写真は僕のホームリバーでヤマメ釣りの最中に開けた川原で出会ったオスの雉ですが、下の動画にはオイカワ釣りの途中で出会った雉の姿が映っています。この動画の時は雄雌共にいたので恐らく産卵後の番(ツガイ)だったと思うのですが、雌の方はすぐに隠れてしまい撮影できませんでした。
子供の頃は地味な色合いの雌を見つけても、美しい雄はなかなか目にすることはできなかったのですが、近年はどちらも僕の目に留まることが多いです。理由は分かりません。
次にゲームバードとしての雉から、魚釣り特にフライフィッシングにおけるフライマテリアル(材料)としての雉に見方を変えてみようと思います。
フライフィッシングの世界において雉の英語名である「フェザント Pheasant」は、単に無数にある羽根素材の一つを超えて、ある種のシンボリックな存在感を持っているようです。鮮やかな色彩の雄も、地味で柔らかな質感を持つ雌も余すところなくフライマテリアルとして用いられており、特に尾羽の重要度はその万能さにおいて比肩するものがないかもしれません。
ドライフライやウェットフライにももちろん多用されていますが、カゲロウの幼虫をイメージしたフェザントテイルニンフは、名前の通り雉の尾羽(フェザントテイル Pheasant tail)と、補強と体節の役割を兼ねたコパーワイヤーのみで巻かれた全てのニンフフライの基本と言っても良いフライで、そのシンプルさゆえの万能性から僕自身もっとも多用するニンフフライです。
オリジナルはイギリスの伝説的なリバーキーパーが考案したフライですが、カゲロウが生息する川では世界中で愛用されているそうです。
これまで6回にわたって野鳥を中心に人間の生活と狩猟を介しての自然とのつながりを見つめ、そして人間の生活と野鳥との密接な関係があったからこそ、それら野鳥がフライフィッシングの毛鉤に用いられてきたことを紹介してきました。
狩猟でも魚釣りでもその後の食べる愉しみ・喜びを含んでいることは言うまでのないことですが、それは最初の「狩人的小話①川」にて述べた通りです。
魚を切り身でしか理解していない現代の子供を笑うことがあるけれど、果たして我々がそれを笑えるほど自然や環境を理解できているのかどうか甚だ疑問であると言えないでしょうか。
僕は魚釣愛好家です。餌釣り(コースフィッシング)も疑似餌釣り(ルアーフィッシング)も好きだけれど、最も傾倒しているのが毛鉤釣り(フライフィッシング)なので、この【狩人的小話】を書き連ねるに切っ掛けとして毛鉤の材料(マテリアル)という視点を据えてみました。このようにして改めてフライフィッシングを取り巻いている環境を俯瞰してみると幾つもの新しい発見があって驚き、喜びました。僕自身はハンティングの経験がないので実際の具体的なところは分からないのだけれど、思いを巡らせるだけでもその行為が非常にクリエイティブな遊びだと理解できます。ひょっとしたら人間の生活と自然との関わりを取り戻すための最も重要なミッシングリンクなのかも知れないとも思うようになりました。
それでもあえて僕の思う個人的な問題点を挙げるとするなら、ハンティングでは対象の全てが死んでしまうということです。獲物を食べることの歓びや哲学的な意味は理解できるけれど、僕は魚釣りのようにキャッチ・アンド・リリースができる選択的な環境を支持したい。それはひょっとしたら文明を笠に着た堕落なのかもしれません。もしそうだとしても、ジビエ料理の耐え難い誘惑にいつも負けてばかりいるのだとしても、殺さないで済む選択肢もあった方が良いと思います。
だからバードウォッチングの愉しみは非常に良くわかります。ハンティングの持つ現代的な意味がもっと広く我々の中に浸透したなら、将来ひょっとしたら今はまだとても一般的とは言えないアニマルウォッチングやアニマルトラッキングなども人気のレジャーになるかもしれませんね。
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