一本のロッドをスピニングとフライ両方で使う、スピン・アンド・フライロッド Spin and Fly。
偉大なる発明か、それとも奇を衒ったギミックか?!
Hardy Brothers Ltd. All-in-one rod. ハーディ・ブラザーズ社(英国)、オール・イン・ワン。 |
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アメリカのメーカーに多いのですが、一本のロッドのグリップを付け替えてルアーロッドとフライロッド両方に使うことができる、という変り種のロッドがありました。
今でも比較的廉価なものが売られているようですが、かつては各メーカー結構本気の作りをしていたと思います。
フェンウィック Fenwick やフィリプソン Phillipson、それにフィリプソンがOEMしていたオービス Orvis からも販売されていたし、イーグルクロゥ Eagle crow やシェイクスピア Shakespear もあったかな。
グリップの形式には大きく3つのタイプがありました。
- 一見するとスピニングロッドと何の変哲もないのだけれど長めのグリップにスライドリングが付いて、スピニングロッドとして使う際はグリップ前方に、フライロッドとする場合はグリップ後方の、任意の位置にリールをセットするタイプ。(スライドリングでなくてリールシートそのものが前後に動くタイプもありました。)
- グリップの上下両方がフェルールとなっていて、フライロッドの時はコルクハンドル側のフェルールにブランクを挿し(つまりリールシートが後方となる)、スピニングロッドとする場合はグリップを反対にしてリールシート側のフェルールにロッドを挿して使うタイプ。
- 普通のスピニング用グリップ(リングシート)の下にフライ用のリールシートがつけられたタイプ(フライロッドとする際、リングが邪魔にならないのかな?)
1番目のリングタイプのグリップは、正直なところ外見上はそう言われなければフライロッドとは思えないですネ。セミダブルグリップのスピニングロッドそのものです(笑)。
そして3つのタイプそれぞれの「スピン・アンド・フライ Spin and fly」ロッドに共通しているのは、やはり基本的にはスピニングロッドとして設計されているということでしょうか。
いずれもロッド全長は7フィート程でライトアクションのスピニングロッド。フライとして扱う場合は5番または6番ウェイトに相当していました。
ガイドも一般的なスピニングロッドのもので、フライロッドの特長とも言えるスネークガイドは用いられていません。
そして何故か4ピースのパックロッドでした。
スピン・アンド・フライが多く作られた70~80年代前半はほとんどのロッドが2ピースでしたが、このタイプに4ピースが多かった理由としては、やはり荷物の制限される「旅」の道具としてスピニングとフライとを両方持って行きたいという要望にこたえるためだったのかもしれませんね。
その名も「コンビーノ Combino 1 Zoom」で、長さ8フィート、2ピースのスピン・アンド・フライロッドです。
グリップは39cmあり、セミダブルハンドル相当の長さです。
そこにスクリュー式のリングでリールを固定するのですが、ユニークなのはリールの固定とは別にリールシートそのものが移動するところです。
この方式は同社の他のルアー用スピニングロッド(スエシア・シリーズ Suecia)にも用いられています。
キャスティングウェイトは2-15g、フライラインは7-8番ウェイトです。
他社のスピン・アンド・フライロッドとは異なりレングスが8フィートと長めなのは、よりしなやかなフライロッドらしいアクションを目指していたのかもしれません。
そしてひょっとしたら「パックロッドでない」、ということもアブ社の誠実さだったのかもしれません。
当時アブ社が発売したフライロッドの最高級モデルは「フェラライト・シリーズ」でした。
フェラライト・サファリについての記事で「フェラライト故にパックロッドが可能だったのではないか」と言う僕の推測を紹介しました。
このコンビーノもスピン・アンド・フライの体裁をとりながら「フライロッド」としてのアクションを犠牲にしたくなかったからこそ、他社よりも長いレングスが必要であり、パックロッド化することを諦めたのかもしれません。
もうひとつ、カタログから別の深読みができるとすれば、このコンビーノの掲載ページについてです。
そもそもスピン・アンド・フライロッドと言うと、どんな釣りに使うロッドをイメージできるでしょうか?
フライはともかくスピニングロッドとして使う場合は「ルアー用」をイメージすると思います。
しかしコンビーノが掲載されているページは、フライロッドのページでもルアーロッドのページでもなく、コースフィッシング(エサ釣り)用ロッドのページとなっています。
以前フェラライト・サファリについて紹介した際、アブ社のルアーロッドはファストアクション(先調子)で全体に硬いということを指摘しました。
つまり逆説的にですがコンビーノはスピン・アンド・フライロッドではあるけれど、フライロッドのしなやかさをブランクデザインの主題としたゆえに、当時のアブが提供していたルアーロッドのアクションから遠くなってしまい、エサ釣り(コースフィッシング)用スピニングロッドとしてこのページに並べたのではないかということです。
もちろん僕の想像であって真実は分かりません。
しかし根底に潜むアブ社の誠実さ、真剣さ、そしてデザイン/モノ創りの面白さが伝わってきます。
1960年代後半、ベトナム戦争に対する反戦ムーブメントと重なる形でのヒッピーカルチャーの胎動はアメリカでのアウトドア人気、特にバックパッキングの爆発的な流行へとつながりました。
(注:コリン・フレッチャー Colin Fletcher によるバックパッカーのバイブル "The Complete Walker" の初版が上梓されたのは1967年。"The New Complete Walker" として再版されたのは1974年です。日本語訳は『遊歩大全』です。)
バックパッキングは現代につながるアウトドアカルチャーの源流といってよいと思います。
スピン・アンド・フライロッドはその時代背景を受けての登場だったと言えそうです。
ところで、パックロッドと言う文脈からは外れてしまいますが、アブ社の製品にもスピン・アンド・フライタイプのロッドがあったので紹介しておきます。スピン・アンド・フライロッドはその時代背景を受けての登場だったと言えそうです。
スウェーデン語版のABUカタログ "Napp och Nytt73" p82-83. |
その名も「コンビーノ Combino 1 Zoom」で、長さ8フィート、2ピースのスピン・アンド・フライロッドです。
グリップは39cmあり、セミダブルハンドル相当の長さです。
そこにスクリュー式のリングでリールを固定するのですが、ユニークなのはリールの固定とは別にリールシートそのものが移動するところです。
この方式は同社の他のルアー用スピニングロッド(スエシア・シリーズ Suecia)にも用いられています。
キャスティングウェイトは2-15g、フライラインは7-8番ウェイトです。
他社のスピン・アンド・フライロッドとは異なりレングスが8フィートと長めなのは、よりしなやかなフライロッドらしいアクションを目指していたのかもしれません。
そしてひょっとしたら「パックロッドでない」、ということもアブ社の誠実さだったのかもしれません。
当時アブ社が発売したフライロッドの最高級モデルは「フェラライト・シリーズ」でした。
フェラライト・サファリについての記事で「フェラライト故にパックロッドが可能だったのではないか」と言う僕の推測を紹介しました。
このコンビーノもスピン・アンド・フライの体裁をとりながら「フライロッド」としてのアクションを犠牲にしたくなかったからこそ、他社よりも長いレングスが必要であり、パックロッド化することを諦めたのかもしれません。
もうひとつ、カタログから別の深読みができるとすれば、このコンビーノの掲載ページについてです。
そもそもスピン・アンド・フライロッドと言うと、どんな釣りに使うロッドをイメージできるでしょうか?
フライはともかくスピニングロッドとして使う場合は「ルアー用」をイメージすると思います。
しかしコンビーノが掲載されているページは、フライロッドのページでもルアーロッドのページでもなく、コースフィッシング(エサ釣り)用ロッドのページとなっています。
以前フェラライト・サファリについて紹介した際、アブ社のルアーロッドはファストアクション(先調子)で全体に硬いということを指摘しました。
つまり逆説的にですがコンビーノはスピン・アンド・フライロッドではあるけれど、フライロッドのしなやかさをブランクデザインの主題としたゆえに、当時のアブが提供していたルアーロッドのアクションから遠くなってしまい、エサ釣り(コースフィッシング)用スピニングロッドとしてこのページに並べたのではないかということです。
もちろん僕の想像であって真実は分かりません。
しかし根底に潜むアブ社の誠実さ、真剣さ、そしてデザイン/モノ創りの面白さが伝わってきます。
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さて、前置き(?)が長くなってしまいましたが今回はここからが本題です!(笑)
スピン・アンド・フライについて長々と書きましたが手元に本物がないので写真を掲載できなくて申し訳ないです。
1970年代以降(と思われる)アメリカのバックパッキング・ムーブメントをきっかけとして生まれたスピン・アンド・フライに先駆けることおよそ40年前、グラスファイバー製品が生まれるはるか以前の竹竿の時代に、すでに同じコンセプトのロッドが作られていました。
僕の手元にあるそのロッドは「オールインワン All in one」と呼ばれる、ハーディ兄弟社 Hardy and Brothers Co., Ltd. (以後、ハーディ)が手がけた英国製の竹竿です。(竹竿そのものについての説明は長くなるので別の機会に譲りたいと思います。)
まず、このロッドについて紹介していきたいと思います。
全体のパッケージですが、ロッドブランクは4本(ティップx2、ミドルx1、バットx1)あります。
「3ピース、2ティップ」と言うバンブーロッド(竹竿。ケーンロッド、スプリット・ケーンロッドとも呼ぶ)には珍しくない形式ですが、ユニークなのはティップセクションの長さがはじめから異なっている事です。(普通は同じ長さのティップが2本。)
そしてもちろんグリップが着脱式で、先に紹介したスピン・アンド・フライのグリップタイプにすると2番目に相当します。
つまりフライロッドとして使う際はコルクハンドル上部をバットブランクにつなぎ、スピニングロッドとする際はリールシート側をつなぐ、と言う具合です。
ブランクのセクション毎の長さは、
- ティップ1: 3フィート(90cm)
- ティップ2: 1.5フィート(45cm)
- ミドル: 3フィート(90cm)
- バット: 3フィート(90cm)
- ハンドル(グリップ): 1フィート(30cm)
となっています。
つまりティップセクションとハンドルの向きを変えることで、長いティップをつないでしなやかなアクションの10フィートのフライロッドと、短いティップをつないで張りのあるアクションの8.5フィートのスピニングロッドという使い方ができるわけです。
さらに、実はこのロッドにはグリップのアダプターが付属していて、バットセクションを省いて、直接ミドルセクションとハンドルとをセットすることも可能となっています。
もちろん同じようにハンドルの向きを変えられますから、こちらでも同様に7フィートのフライロッドと5.5フィートのスピニングロッドという使い方もできます。
つまりこのロッドは単に、フライとスピンという2タイプの使い分けができるだけでなく、2ピースのブランクにハンドルをセットするか、3ピース全てのブランクを使うかと言う選択もあり、全部で4通りの使い方ができる訳です。
使い方は以下のように整理することができます。
- スピニングロッド: 5.5フィート。ライトアクション。
- スピニングロッド: 8.5フィート。ミディアムアクション。
- フライロッド: 7フィート。5番ウェイト。
- フライロッド: 10フィート。6/7番ウェイト。
なんと、この一本のロッドで渓流から湖までスピニング、フライともに使えてしまうのです!
元々当時のハーディのロッド・ラインナップにはスピン・アンド・フライとは関係なく、「デタッチド・ハンドル Detached Handle」と呼ばれるグリップ着脱式のロッドが販売されていました。
カタログ上でも「パッキングサイズが小さくなり、旅行用のロッドに最適」と謳われています。
1911年に発行されたハーディ社のカタログのレプリカ。 "Hardy's Anglers Guide Fishing Catalog Season 1911 Reprint" p243-244. オール・イン・ワンロッドではないのですが、右下にデタッチドハンドルの フライロッドが紹介されています。 |
そして当然旅行中のロッドを保護する目的で、竹の節をくり貫いたロッドチューブが付属しています。
写真には写っていませんが、ロッドブランクはまず薄く柔らかな(リネン?)ロッドソック(竿袋)に入れてから、竹のチューブに仕舞います。
その後、丈夫なコットンキャンバス製のロッドバッグに入れて持ち運ぶことになります。
コットンのロッドバッグには別にハンドル部分だけを仕舞う袋も用意されているので、もちろん一緒に運ぶことができます。
イギリスは世界に先駆けて産業革命を果たし、鉄道が整備されました。
また1920年代にはヨーロッパ全体で鉄道はもとより、自動車の生産も増えています。
アメリカではモータリゼーションが浸透した後にバックパッキングブームが訪れ、スピン・アンド・フライロッドが生まれましたが、その40年前のイギリスで、まさにモータリゼーションが生まれつつある時代にすでに「旅」をテーマにした釣竿が作られていたことに驚かざるを得ません。
さらにまた、旅行用だからと手を抜いたりせず、道具として完璧を目指そうとする姿には感動すら覚えます。
オール・イン・ワンを7フィート5番にセットしての渓流釣り。 |
実は今のところ僕自身はこのロッドを7フィートの渓流用フライロッドとしか使っていません。
正直に言うと、10フィートのバンブーロッドをフライロッドとして扱うには、シングルハンドのグリップでは重量的に厳しいですネ。
実はキャスティングだけは公園でやったことがあります。
はじめはショートロッドの時と同じように5番ウェイトで投げてみたのですが、ロッドにラインの重みが感じにくいばかりかロッドの重さのみが気になってまともに振れませんでした。
そこで6番ラインに変えてキャスティングしてみたところ、アラ不思議、5番の時ほどロッドの自重が気にならなくなりました。
もちろん重いのですが、ラインの重量がロッドに乗る感触を確かめながらゆっくりとキャスティングアークを繰り返すとシングルハンドで投げられないほどではありません。
ファーストアクションのグラファイトロッドのようにロッドに力を加えてラインを飛ばすのではなく、ロッドそのものがゆっくりとラインを運んでくれる感じです。
この辺りがバンブーロッドの面白さなんでしょうね。
とは言え、10フィート前後のバンブーロッドを使うって一日中釣りをするにはダブルハンドのグリップでないと現実的では無いでしょうね。
しかし残念ながらこのロッドにそういった付属品はありません。
同時代のハーディ・ロッドにはオプションのリアグリップがあったようですが、残念ながら僕の手元にはありません。
社外品を求めてセットする方法もあるのですが、オールインワンのグリップのフェルールはネジでなくシンプルに差し込むだけのため、一般的に売られているスクリュー(ネジ)式のリアグリップがこのロッドに合うかどうかはわかりません。
そうは言っても、やはり使ってみたいですよね、10フィート・バージョンのフライロッドも!
そこで無いなら作ってしまえとばかりに工作を楽しんでみました。
自作リアグリップ。高級感溢れる(?笑)木製バットエンドは ホームセンターで買い求めたクローゼットドアのツマミを オリジナルのエンドキャップにあわせてウォールナットカラー で塗装したもの。 |
セットするとこの通りスイッチロッド(セミダブル)的な絶妙のバランスです。 デザイン的にも全く違和感なく、またオリジナルのイメージを損なわずに、 より実用的になったと思います。本流のウェットフライに使ってみたい! |
来るべき2015年シーズンはこのダブルハンド・バージョンのロッドにも是非鱒の引きを味あわせてあげたいと思います!
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近所の川に釣糸を垂れるわずかな時間であっても、そこに「旅」の雰囲気を味わいたいと思っています。
先人の知恵に、道具に感謝し敬意を払いつつ共に旅に出ようじゃありませんか!
初コメです
返信削除アブのグリップは位置を変えられるのでオールラウンドな釣りが可能なデザインですね。
それにも増して、ハーディー!!
マルチピースの現物は初めて見ました。
どこにでも持って行って、いろいろな実釣りができる。
まさに愛竿となるべくして生まれた竿ですね。
1920年代の米国でも、皮の旅行カバンに収納したり、サイクリングとかホースライディング、キャンピング用の、スプリットバンブーのパックロッドが各種作られていたようです。
こういうおおらかな時代の釣りが、いまでも再現できるのは素晴らしいです。
なみ平さん、コメントありがとうございます。
削除ハーディもアブと同じで(?)、今の目線で見ると結構おかしなことをやっていて、そこがまた魅力的とでも言うか・・・(笑)。
そうですね、バンブーロッドは(も?)基本的にアメリカがリードしていましたよね。
ハーディにしても、アメリカのバンブーロッドをテーブルの上に広げて「これと同じものが作れるか?」と職人たちに迫ったという話もありますし。。
何にしても心からリラックスして満たされる道具と出会うことができたら、それは幸せですネ♪
再コメです
返信削除レスコメありがとうございます。
スピニング仕様は当時、8.5ftはセンターピンリールでコースフィッシングだと思います。
5.5ft仕様はどんなリールでどんな釣りモノだったでしょうかね。
本当に興味深い竿です。
Combino 1 Zoomは1974年にはカタログにありましたけど、75年には無かったようですね。