魚を食べるなら基本的には海の魚の方が美味しいと思うのだけれど、たまに出掛けた温泉宿などで鱒(マス)の塩焼きがテーブルに並んだりすると、ちょっとした野趣を感じて嬉しい。ただしこれはたまに食べるから美味しいのであって、仮に連泊した翌日の夜も同じ塩焼きが並んだらちょっとげんなりするのは僕だけじゃないはずだ。
鱒料理でちょっと変わっていて面白いと思ったのは、スペインの確かパンプローナのレストランだったと思うのだけれど、メニューに「ナバラ風」と書いてあったものだ。その土地の鱒料理がどんなものかと頼んでみたのだけれど、やがて湯気を立てて運ばれてきた皿に載っていたのはパンサイズの虹鱒の、薄く小麦粉を振った上でグリルされ、その上に生ハムが重ねられた逸品だった。ハーブの爽やかな香りと生ハムの塩気が鱒の淡泊な身と良くマッチしていて美味しく食べられたことを覚えている。
すでに【狩人的小話①「川」】で書いたように、僕はスペインの田舎を旅しているときに、豊かな水を湛える一本の川の存在が食を通した文化を成り立たせていることを理解したのだけれど、上の写真は彼の地で見つけた田舎家風民宿を兼ねたレストランの看板で、鱒料理を名物にしていると読み取れる。ただし先に紹介したナバラ風マス料理のお店とは異なることを断っておきます。
さて、ここでこの看板をちょっと深読みすると、上部に大書きされた「ラ・トルーチャ La Trucha」というのは英語の「ザ・トラウト The Trout」であってまさに「鱒(マス)」を意味しているのだけれど、その下に「デル・アルコ・イリス del Arco Iris」と小さく書いてあるのはいたただけません。アルコ・イリスとは「虹」の意味で、つまりトルーチャ・デル・アルコ・イリス Trucha del Arco Iris とは「虹鱒(ニジマス)」を指していることとなります。
本来、スペインを含む欧州原産の鱒は「ブラウントラウト Brown Trout」であって、スペイン語では「トルーチャ・コムン Trucha comun」と呼ばれています。ところがこの看板に書かれているのはトルーチャ・デル・アルコ・イリスであり、英語では「レインボートラウト」と呼ぶところの虹鱒だと正直に書いてあることになります。もちろん虹鱒は北米からカムチャッカ辺りまでを原産としている鱒の種類だから、看板の鱒の絵の下に「カサ・ルーラル Casa rural」、つまり田舎風の家、田舎家とわざわざ強調しているのであればやはり地元の魚にこだわって欲しいところだけれど、これは釣人らしいこだわり過ぎと言えるでしょうか。。
僕は渓流の鱒釣りが大好きなので、概ね3月から始まり10月に至るまでの遊漁期間中は可能な限り川歩きを楽しんでいます。そこで釣ることができた鱒は基本的には全て逃がすことにしているのだけれど、たまには持ち帰って自分で包丁を取り腕を振るうこともあります。もちろん続けて何匹も食べたいとは思わないのだけれど、カゲロウやトビケラや夏の甲虫類、或いは辺りの小魚を飽食して、また渓流の透明な強い流れに磨かれた鱒は、やはり美味しく食べられます。
そこで今回は自慢のお皿を幾つか紹介しようと思います。
まずは一番簡単なホイル蒸し。
適当な香味野菜とベーコン、バター、それに好みでハーブなどを添えて、或いはお腹に詰めてしっかりとホイルで包んでからフライパンで蒸し焼きにするだけ。ベーコンは好みだけれど、魚の臭み消しにもなるし、さし油の代わりにもなるのでお勧めです。
次に下の2例は香草焼き。塩胡椒をしてからフライパンでグリル。上はローズマリーで、下はディルをそれぞれ使っていますが、一緒に混ぜて使っても良いと思います。写真のローズマリーは魚と一緒に焼いたものと、焼き上がってからフレッシュなものを合わせてトッピングしています。
次に衣をまぶしたメニューで、カナダのお土産にもらった市販の味付きの粉を使った時の物。日本のから揚げ粉みたいなもので、何種類かのフレーバーがあったと思います。簡単にムニエル風、或いはフィレオフィッシュができてそれなりに美味しく頂けました。
最後はバター焼きです。小麦粉を振っているのでムニエルと言っても良いのかもしれませんが。この魚は確か芦ノ湖で友人が釣ったブラウントラウトのおすそ分けだったと思います。大きい魚は切り身にしてバター焼きにすると食べやすいですね。
海の魚の方が美味しいとか言いながら・・・結構食べているな(笑)。
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