2005年12月30日金曜日

トロピカルフィッシングの誘惑 (2005)


沖縄へはずっと前から興味を持っていて、でもその割には真剣に情報を集めたりはしてこなかった。
だから石垣島っていう名前は知っていても、それが沖縄本島からは地理的にも文化的にもやや離れた八重山(諸島)であると言うことを知ったのは、恥ずかしいけれど現地へついてからだ。
沖縄旅行は金額的に「高い」と頭ごなしに思い込んでいたせいでもある。
探せば、いつもの僕の旅がそうであるように、リーズナブルで清潔で静かな宿があることも知ったし、当然ながら地元の人たちと触れ合いながら旅を続けることが可能であることもわかった。



石垣島にて。

港の近くで自転車を借りた。
綺麗なお姉さんのコジャレた店で。
カミサンと二人で白保の海を目指す。
世界最大級のアオサンゴの群生が見られる場所だけど、新空港建設予定地になっている。
もちろん多くの人々が建設に反対しているし、当然僕も反対だと声を大にして叫びたい。
この場所が建設予定地として決定された背景にはいろいろな事情があったのだとは思うけれど、グラスボートから覗くことができたあのアオサンゴを、ユビサンゴを、エダサンゴを、そして多くの生物を失ってはならない。

今回の旅に持ち込んだ釣り道具はルアーとフライを各1セット。
本当はフライのみ1セットの予定だったのだけれど、カミサンが突然「私も釣る!」なんて言い出したので急遽スピン・タックルも準備した。

その日の白保は風が強くてとてもフライが振れるような状態ではなかったので、カミサン用のスピン・タックルを使ってシーバスハンターⅡをキャストした。
最初は船溜まりの影を狙っていたけれど足元をコバルトスズメが群泳するだけで魚の感触はなかった。
一度、目の前をサァーっとフィッシュイーターらしき影が横切ったけれどただそれだけ。



辺りの散歩から戻って自転車を置いた近くの海にくるぶしくらいまで浸りながら文庫を読んでいるカミサンへ近づき、僕もサンゴの欠片を踏みしめながら膝まで立ちこんだ。
こんなアテズッポウじゃ釣れないよなぁ、と思いつつミノーをジャークしてくると、なんと一投目でダツがヒットしてしまった。
ガツンと当たってフッキングした後はひたすらジャンプを繰り返す彼のファイトはなかなか素晴らしい。

リリースしているときに近所のおじさんがやってきて「オキザヨリ(ダツ)」と一言。 カミサンがおじさんと会話をしている間にももう一匹ヒット。
強く引くわけではないけれど、やはり何度も何度もジャンプを繰り返すファイトを目の当たりにしておじさんも「おもしろいなぁ」と。
やっぱり釣りは楽しい。

自転車で街へ戻り、石垣牛に舌鼓を打ちつつ僕のアドレナリンは早くも全開になっている。
***



西表島にて。

僕は高校生になるのと同時にカヌー・カヤックをはじめたから年数だけはベテランと言っていいかもしれない。
そして西表島にはその頃から強くあごがれていた。
写真で見た風景は、奇妙な形の根っこがうねうねと絡み合うマングローブの森の中を流れる川。
是非、その川を漕いでみたい。

西表島は他の島に比べると明らかに「異相」と言える。
島の大きさに対して川が多いし、山がある。
だから緑が濃い。

主観だけど他の離島のイメージがブルーなのに対してここはディープグリーン。
そう、マングローブのジャングル。
川が多いから、特にそれが異相であるから、カヤッキングはこの島のエコ・ツアーのメインイベントとして企画している会社も多い。
それを利用するのが手っ取り早いのだけれど、僕らは宿で2人艇カヤックをレンタルだけした。
カヤックだけじゃなくて釣りもしたいしネ。



高低差が少なく、汽水の川だから流れはほとんど感じない。
ユックリとパドルを動かして川の奥、森の中を目指す。
川幅が狭くなるに従って迫力を増して迫りくるマングローブの緑。
その森の中から伝わる、初めて聞く野鳥の声。
あちこちでバシャバシャと水面がざわめくのはフィッシュイーターに追われた小魚の群れ。
トロリとした水面から匂い立つように生命の息吹を感じるのは、この島ならではだろう。
誤解を恐れずに言えば、やはりジャングルの島だ。

バシャバシャと、ボイルの音を聞いているうちについに我慢ができなくなってルアーをキャストする。
マングローブの根に引っ掛けないように、強く注意しながら。
リトリーブ、ジャーク、トゥイッチ。
もう一度。
キャスト、そしてアクション。
ガツン。
ヒット。
トルクフルな引き込みがロッドを絞る。
そして頭を左右に振ってのファイト。
ルアーを傷だらけにした鋭い歯は、赤い魚体のゴマフエダイ。



もっと奥へ。
船底をこするくらいの浅瀬へ着くと、手のひらほどの魚がヒュンヒュンとパドルをかすめていくのがわかる。
カミサンにカヤックの位置をキープしてもらいながらキャストすると、やはり小ぶりのゴマフエダイが釣れた。
別の場所でやや強くトゥイッチングを繰り返すと、ナンヨウチヌやユゴイもヒットした。
***



波照間島にて。

「もし予定の変更ができるのなら、波照間島へ行くべきだ」と強く勧めてくれたのは石垣島で同じ宿になった青年だった。
兵庫県尼崎出身の彼は26歳で会社を辞めた後、今しかできないことをしようと思い立ち八重山へやってきた。
1年間だけここで暮らそうと、石垣島の安宿へ滞在しつつ港湾関係の仕事を得た。
1年間のつもりが気づいたら3年になっていた、と笑って、でも少しだけ後ろめたそうに話してくれた。

結局、波照間島には3泊してしまった。
強く勧められるままに1泊しようと島へやってきたけれど、あの海を見てしまったらもうとても1日で帰ることなんてできない。
別の島へも行こうと思っていたけれど、それをやめてここでもう1日。
石垣島へ戻って別の浜へ行ってみたかったけれど、それもやめてここでもう1日。
海が好きな人なら、きっと僕らの気持ちがわかるに違いない。


早朝、誰よりも早く浜へ出かける。
空はまだ暗い。
ペットボトルのサンピン茶を飲みながらタックルを準備する。
僕はフライで。
カミサンのためにルアーも。
ゆっくりと日が昇り始め、海の色が少しずつ明るく鮮やかに深く変わる。
あせる気持ちを抑えながら、でも決して抑えきれずにキャストをはじめる。
きっと最初の一投は力みすぎて綺麗なループなんて作れない。
いつもそうだ。


岩陰を狙う。
水草の影を狙う。
白い砂の上を無造作に狙う。
どこを狙ってもいいし、どこも狙わなくてもいい。
釣れる時は釣れるし、釣れない時は釣れない。
こんないい加減だから僕の釣りの腕はいつまでたっても上達しない。

無造作に投げて、でもリトリーブだけはちょっとだけ神経を集中させる。
グンッと当たりがあって魚が、ラインが、横に走る。
あわてつつ、でも平静を装ってゆっくりとラインを手繰るこの瞬間が好きだ。
知らない土地では名前のわからない魚が良く釣れる。
それも楽しい。
だから旅が好きだ。

ガーラは数匹で小さなスクールを作って回遊していることが多い。
青くて透明な水の中、白い砂の上をサァーっと、あるいはスゥーっと、たまにはユックリと泳いでいくのが見える。
彼らの前方へヘタクソなキャストをすると、それでも彼らの頭が僕のラインの先端へ向いたのがわかる。
チョンチョンとやや早めにリトリーブをすると彼らが追ってきて、すぐにギューンをラインが引っ張られる。
ヒット。 
やがて彼らは僕の手の中に納まる。

本当に美しい。
青くて緑で透明な海も、白い砂も、抜けるような空も、白銀の魚体と散りばめられた黄色い文様、ブルーのフィンも、本当に美しい。



宿へ戻って朝食。
コーヒーを飲んで一息ついたらまた浜へ。
今度はスノーケル。
さっき釣った場所のちょっと沖、サンゴの中へ向かってフィンをユックリと動かす。
コバルトスズメやチョウチョウオや鮮やかな魚の乱舞。
イソギンチャクに隠れるクマノミ。
これを幸せと呼ばずして何と呼ぶ?

午後、日が傾く頃にもう一度釣りをする。
「私も釣る」を言っていたカミサンも、彼女なりにアレコレ工夫を凝らしたらしく、金色のミノーでガーラを釣った。
「いきなりガンッて重くなったんだよぅ!」。
100mほど離れたところで立ち込んでいた僕の所へルアーについたままの魚をぶら下げてやってきてニコニコしていた。



***
また来年も行こう、あの海へ。
Date: Nov 23 - Dec 03, 2005.



フライで釣れた魚:ガーラ、コバンアジ、ヤガラ、他名称不明魚
ルアーで釣れた魚:ガーラ、ダツ、ゴマフエダイ、ナンヨウチヌ、ユゴイ
(「ガーラ」と便宜上呼んでいる魚がいますが、僕が実際に釣ったのは「カスミアジ」と「ギンガメアジ」のようです。)

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