2001年12月30日日曜日

“美しい海”という名前の街で (2001)


グラナダからアルヘシラスへと向かう途中に、“マルベージャ(Marbella)”という名前の町を通り過ぎた。
シェラ・ネバダの中腹に築かれた古い都市を出たバスは、次第に高度を下げやがて海岸近くを走ることになる。
そこではじめてちらりと車窓から海を覗くことができたのが、そのマルベージャの付近だったと思う。 “美しい海”という意味の街だ。 
***
ジブラルタル海峡にあるヨーロッパからアフリカへの玄関口といえば、その海峡の名前でもあるジブラルタルが最初に思い浮かぶけれど、ジブラルタルは英国領だからスペインの玄関というとアルヘシラスがそれに当たる。
そのアルヘシラスからマルベージャまではダイレクトのバスでなら1時間ほどで着く。
マルベージャはアンダルシアの大都市マラガからも近いからコスタ・デル・ソルの街の中でも有数のリゾート地だという。

バス・ターミナルから海の見えた方向へ向かって適当に歩く。
曲りくねった細い道を通り、ふっと視界が開けたのは海の前のレストランだった。
そこはもう南国ムードいっぱいで、心なしかアルヘシラスよりも熱い国のような気がした。
海岸線は美しい砂浜で、それに平行して遊歩道が流れる。
反対側には有数のリゾート地らしくホテルが林立している。
端っこのヨットハーバーを通りすぎ、遊歩道に面する幾つかのレストランの中から、赤紫のテーブルクロスを使ったオープン・カフェのテーブルに着く。
ブレック・ファーストとかかれたメニューを頼んで一息ついた。



観光シーズンにはまだ早いからかもしれない。人影もそう多くはなく、全体的にのんびりとしていて心地よい。
リゾート地だと聞いていたから、わさわさと大勢の人だかりがあって土産物屋がひしめくようだったら嫌だなぁとも考えていたのだけれど、とりこし苦労に終わってほっとした。
“リゾート”という言葉を強く意識したのは、パラソルの下や砂浜には水着姿が並び、その中にちらほらとトップ・レスの姿も。。。
何とも困った困った。
困りながらもちょっと嬉しいのはなぜだろう。
まぁ観光客のうち、数的上位を占めるのはやっぱりリタイヤしたあとのお年よりだけれどね。
それもまたリゾートの本来の姿かもしれない。

砂浜に一本、細い石堤が伸びている。
青い海と青い空が遠くで交じり合う、そちらに向かってすうっと。
ピョンピョンと跳ねるように歩きながら、その先端近くで釣りをしているおじいさんの所まで行った。

ブルーのTシャツと薄い水色のショートパンツ、白いデッキシューズがなんだか決まりすぎていてなんだか映画のワン・シーンみたい。
リゾート・ファッションがこんなに似合うなんてズルイよ。


イギリスのマンチェスターから来ているというから、僕も久しぶりにつたない英語で会話する。
彼は仕事で日本に3年住んだことがあると言っていた。
マリコというガールフレンドもいたというから、僕の妻じゃないだろうねと言うと、ハッと口を隠す仕草をしたから二人で笑った。

ユーモラスなおじいさんで、なんとなく気が合って次々に笑いの種が見付かった。
“サラマンカという街ではルスィオを釣ったんだ。英語ではパイクだよ。”
“おお、パイクか!面白い話がある。あの魚はとてもでかくなるだろ、川で子犬が気持ち良さそうに泳いでいると、突然ガバッと食っちまうんだ。まるでジョーズだよ、すごいだろ!”
“うん、見てみたいよ。最高のエンターテイメントだ!”
“ハッハッハッ!!!”

“イギリスには来たことがあるかい?”
“一度もない。行ってみたいけどね。”
“来てもつまんないよ。いつも雨が降ってるから。”
“じゃあ、日本と同じだ。”
“ハッハッハッ!!!”
***
奥さんと一緒に旅行に来て、一人でさっさと釣りをしているというのがいいじゃないか!
少年みたいなおじいさんと大笑いをして、日がな一日海を見ていた。

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