2001年12月29日土曜日

パイクについての蛇足・補足・追記


故・開口健氏の書籍を久しぶりに開いてみたら,やっぱりこの魚についても楽しいエッセイを披露していて夜更かしのコーヒーとともに心が躍った。

おじさんの話を聞いたり,仕掛けをいろいろ見せてもらっているうちに,ふいにカマスを釣ってみたい気持がうごいてきた。何しろこの魚は日本に生息していないのである。日本のカマスは海のカマスだけで,川のカマスはいないのである。マスは北海道へ行けばさまざまな種類がいるが,カマスはどこにもいない。けれど“大強盗”と異名のついたこの猛魚は全ヨーロッパとイングランド,スコットランド,アイルランド,そしてロシア,中央アジアの方まで広大に分布して湖と川の弱小魚族をふるえあがらせ,養魚家には憎まれ,寓話作家のペン先にはかならずひっかけられて貪欲の代表に仕立てられている。
「バイエルンの湖でカワカマスを二匹釣ること」 『私の釣魚大全』 文春文庫

「…フランス人のお客が来ています。もう五年にもなるいいお客さんです。しかし,どういうわけか,カマスしか釣らんのです。今日も朝六匹,昼四匹釣ってきましてね」 おやじはそういって頭の横で指をまわしてみせる。“クルクルパァ”の図である。マス釣りが最高でカマス釣りは鈍なものだとドイツでは考えられている。それはその通りだと私だって考える。マスは賢いうえにとんではねまわって全身でたたかう。カマスは強力無双,怪腕と牙と体重でさからうが,動作ははるかににぶい魚である。しかし,私はそのカマス気ちがいのフランス人をバカにしたくない。ジムス湖の暗鬱な氷雨のなかでふるえつつひたすら魚信を待っていた一昨日の黄昏と,ついにショックがきたあの瞬間の全身を走った戦慄のことを思い出すと・・・
「チロルに近い高原の小川でカワマスを十一匹釣ること」 前掲書

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ここでそういえばアイザック・ウォルトン卿が17世紀(!)に書いた本にもパイクがいたなぁと思い出す。この本は史上初の魚釣りマニュアルで,前掲の開口氏のタイトルもここからの引用だ。もちろんイギリスの,日本の江戸時代初期に相当する頃の本だから科学的には怪しい記述も少なくないが,イギリス人らしいユーモアの利いた楽しい読み物である。

サー・フランシス・ベーコンは,その著『生と死の歴史』の中で,パイクの寿命は淡水魚の中で最も長いと言っていますが,普通には四十年を超えないともいっています。また,十年を超えないと考える人たちもいます。しかしゲスナーは,一四四九年にスウェーデンで捕らえられたパイクは,それより二〇〇年以上前にフリードリヒ二世によってその池に入れられたものであることがわかったと述べています。
「第八章ルースまたはパイクの話と,その釣り方」 『完訳 釣魚大全』 平凡社ライブラリー

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また僕の本棚にはもう一冊,S.T.アクサーコフという人が19世紀半ばに書いた釣りの指南書もあって,こちらにもカワカマスについての章が設けられている。

カワカマスは主として魚を,そしてあらゆる水生爬虫類を食餌とする。この魚はその貪欲な性格から蛙,鼠それに鴨(ウートカ)の子までも呑みこむ。そのために大きなカワカマスはウチヤートニツァ(小鴨を食べる魚の意)と呼ばれている。
「十八,かわかます」 『釣魚雑筆』 岩波文庫



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ねっ、釣りたくなって来たでしょ(笑)。

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