2015年4月8日水曜日

フェラライト・サファリとデルタ ABU, Feralite Safari & Delta

ABU社が世に送り出したロッドは数あれど、このフライロッドがその種類を超えてナンバーワンなのではないかと個人的に強く強く思っています!

ABU, Feralite Safari & Delta 5.

手元にある1973年版のカタログから読み取ると、フライロッドのラインナップには「スカンジア Scandia」、「ラップランディア Lapplandia」、「フェラライト Feralite」、「ディプロマット Diplomat」、「サルモ Salmo」の4つのブランドが展開されていたことがわかります。
  • Scandia 556 (8 1/2 feet. 5/6 weight.)
  • Scandia 567 (8 1/2 feet. 6/7 weight.)
  • Scandia 578 (9 feet. 7/8 weight.)
  • Scandia 589 (9 feet. 8/9 weight.)
  • Feralite 856 (8 1/2 feet. 5/6 weight.)
  • Feralite 878 (8 1/2 feet. 7/8 weight.)
  • Feralite Safari (8 1/2 feet. 7/8 weight.)
  • Feralite 889 (9 feet. 8/9 weight.)
  • Feralite 8910 (9 feet. 9/10 weight.)
  • Diplomat 850 (8 1/2 feet. 6/7 weight.)
  • Lapplandia 5078 (8 1/2 feet. 7/8 weight.)
  • Salmo 5810 (12 feet. 9/10 weight.)
  • Salmo 5812 (14 feet. 11/12 weight.)

    スウェーデン語版のカタログ "Napp och Nytt73" p114-115.

    実は細かくカタログを見ると上記以外のモデルもあるようなのですが、概要は以上の記述でつかめると思います。
    5番ウェイトから12番まで、渓流のトラウトからサーモンまでということになるでしょう。

    この中で異質なのはやはり「フェラライト・シリーズ」です。
    レングスは8.5フィートと9フィート、ラインウェイトは7番から10番ということですが、実際に使った感想で言うと、7/8番とは言っても現在の感覚で言うと6番ウェイトくらいがピッタリです。
    グラスファイバー素材でこの長さですから少々重いのは仕方ありませんが、日本の感覚で言えば湖で使うのにピッタリです。
    中でもバスフィッシングなんて最高です。

    スウェーデン語版のカタログ "Napp och Nytt73" p116-117.

    ところでこのロッドの何が異質なのかと言うと、オールドタックルファンなら名前でピンと来るかもしれませんが、このモデル以外のフェルールが金属製なのに対して、フェラライトはロッドブランクと同じグラスファイバー・フェルールが採用されている点です。
    そもそも「フェラライト」と言う名前は、フェンウィック社(米国)が開発したグラスファイバー・フェルールの名称です。
    当然、必要な権利はフェンウィック社が保有していますから、このフェラライト・シリーズはアブ社がフェンウィック社へOEM生産を依頼したのではないかと想像できます。

    ご存知のように、もともとアブ社はスウェーデンの会社で米国における輸入代理店はガルシア社 Garcia でした。したがってアブ社のロッドの多くはガルシア社が供給したコノロンというブランクを使っていたようです。
    実際に使い比べてみると分かるのですが、コノロンは全体的に硬いファーストテーパーのロッドで、これはスピナーやスプーンといった比重の重いメタルルアーならまだしも、フライロッドとしてはいささか役不足な感じがします。
    それは高級路線のディプロマットでも変わりません。
    (ガルシア社が販売していたコノロン・フライロッドはドライフライ・アクションと呼ばれていました。ピンポイントにプレゼンテーションするにはファーストテーパーという発想かも知れませんが、やはりティップの繊細さが欠けていると僕は思います。)

    そう考えるとフェンウィックのブランクをフライロッドに採用したアブ社の思惑は良く分かるような気がします。
    ま、あくまで想像の範囲ですが。

    スウェーデン語版のカタログ "Napp och Nytt73" p118-119.

    次にフライリールについても少々。
    アブ社を代表するフライリールと言えばこれはもうデルタをおいて他にないでしょう。
    デルタ以前以後共にフライリールとして一般的な丸型リールも作られているのですが、やはりアブらしいのはこのデルタだと思います。

    デルタには、「デルタ5 Delta 5」 と「デルタ3 Delta 3」 の2種類があってサイズは一緒ながらデルタ5には8番ライン相当が、デルタ3には5番ライン相当が適しているとカタログには紹介されています。
    本来、ラインウェイトが大きいほどフライラインの直径が太くなるので、それにあわせてリール(スプール)サイズも大きくなるのですが、デルタにはそういう配慮はありません(笑)。
    ただし一点非常に明確な違いがあります。
    デルタ3がクリックドラグなのに対し、デルタ5はディスドラグを備えている点です。

    もともとアブ社のリールにおけるブレーキシステムはベイトリールでもスピニングリールでもそれ以前のメーカーと比べて革命的といって良い優れた機構を開発しています。
    デルタ5のブレーキも、ハンドルの反対面に設けられたツマミの使い安さと共に、その効きも非常に機能的です。
    ブレーキ性能としてはその製造開始から40年以上たった現在のリールと比較しても遜色ないと思います。

    カナダ、オンタリオ湖のラージマウスバス。
    フライはオリジナル・フロッギー(プロト)です。

    ただしその最大の特徴であるディスクブレーキは逆にこのリールの致命的ともいえる弱点でもあります。即ち自重が重過ぎるのです!
    現在のリールはもとより、真鍮製などのビンテージフライリールと比べても、プラスチックを採用しているデルタの方が重いのは正直つらいところです(苦笑)。

    と、少々苦言めいたことを言いましたが、それはあくまでもリール単体の重量を比較した一般論です。
    不思議なもので先に紹介したアブ社のフライロッドと組み合わせて使うと、それほど気にはならなくなります。
    デルタ(特にデルタ5)を今時のカーボングラファイトのロッドにセットしたら、やはりリールそれ自体の重さが際立ってしまいますが、8.5フィート以上の長さを持つグラスファイバー製ロッドにあわせると、上手い具合にバランスが取れ、持ち重りはしなくなります。

    福島、桧原湖のスモールマウスバス。
    フライはフォーム・ホッパーです。

    同一メーカーで揃えると言うのがコーディネートの妙としては少々安易ではないか、と思わなくもないですが、フェラライト・ズーム、特に5ピースのパックロッドであるフェラライト・サファリとデルタとの組合せは僕にとって最高のフライタックルであることは間違いありません!

    福島、桧原湖のスモールマウスバス。
    フライはバルサ・ポッパーです。

    最後にもう一度、フェラライト・サファリについて僕の思いをひとつふたつ。

    フェンウィックが革新を起こしたこのフェラライト・フェルールですが、それまでの真鍮やニッケルなどメタル製フェルールに比べ、ロッドを曲げた時のロッド全体の撓り具合(ベンディングカーブ)が滑らかな上に軽量に仕上がるということが大きなアドバンテージと言えます。

    実はアブ社のフライロッドのラインナップの中でパックロッドと呼べるのはこのフェラライト・サファリだけなのですが(それ以前に3ピースモデルはありました)、アブ社がパックロッドを展開するきっかけになったのはフェラライトと言う革新があったからこそだったのではないでしょうか。

    この当時のグラスロッドは最近のリバイバルブーム(?)で流行っているグラスとは別物です。肉厚で重厚なブランクなので、仮に5ピースで4箇所のメタルフェルールを設けたとするとロッド自体が重過ぎてしまったことでしょう。

    東京、多摩川のマルタウグイ。

    アブ社のタックルに詳しい方でしたら、アンバサダー Ambassadeur リールに金メッキを施したデラックス DeLuxe という特別なラインナップがあったことをご存知だと思います。
    そのデラックスに相当するロッドのラインナップがディプロマット Diplomat で、ベイト、スピニング、フライのそれぞれのロッドに展開されていました。
    ディプロマットのデザインは黒塗りのブランクにゴールドのスレッドがあしらわれ、恐らく当時は高価だったと思われるフォーム・グリップ(他のロッドは全てコルク・グリップ)が装着されていました。
    (ちなみにガルシア社が販売していたコノロン・フライロッドのファイブ・スターという最高級モデルはアブ社のディプロマットそのままのデザインでした。)

    実は当時のカタログ上でフライロッドの価格を見ると、ディプロマットが215Kr(クローネ)であったのに対し、フェラライト・モデルは240~265Kr、フェラライト・サファリにおいては290Krとはるかに高価だったことがわかります。

    例え自社の最高級路線であったディプロマットを上回る価格帯となろうとも、グローバル・カンパニーにして釣具業界のリーディング・カンパニーでもあったアブ社がフェンウィック社の革新技術を取り入れて「旅人」のために作ったフライロッドがこのフェラライト・サファリだったのではないでしょうか。
    世界中に販路を広げたアブ社だったからこそ「旅」をテーマとするロッドが生まれたのだろうと思います。

    釣り人よ 旅に出よ!
    旅人よ 釣竿を取れ!

    □ □ □

    ロッド本体とロッドバッグのセットです。

    ロッドバッグに張られたネームプレート詳細。
    右下の数字から1974年製と推測できます。

    ロッドブランクに貼られたモデルシール詳細。

    ロッドブランクに貼られたフェラライト FERALITE のシール。
    アメリカでの特許番号と簡単な使用説明が書かれています。

    上記シールの上部にはゴールドのギャランティーステッカーが貼られていて、
    そこには生産番号と思われる数字も記載されています。

    リールシートはアラン社製 ALLAN を示す刻印があります。

    リールシートには販売時に貼られていたと思われるシールが残っています。

    グリップエンドのラバーには ABU, SVANGSTA のマーク。

    再びロッド全形。

    トップガイド詳細。

    2番ガイド詳細。

    3番ガイド詳細。

    4番ガイド詳細。

    フェルール及び5番ガイド詳細。

    6番ガイド詳細。

    7番ガイド及びフェルール詳細。

    8番ガイド詳細。

    9番ガイド及びフェルール詳細。

    ストリッピングガイド詳細。

    フェルール詳細。

    グリップ周り。

    フェルール、オス側詳細。
    1箇所ラバーキャップ欠損。

    フェルール、メス側詳細。

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